PROJECTS
株式会社丸正醸造(松本市)

伝統製法の味噌・醤油を継承しながら、信州らしい新たな商品づくりも


メーカー/食品・農林水産

豊富な水に恵まれた松本市出川の地で、醤油の醸造業として創業し、2025年で130周年。戦後には家庭向けの味噌の醸造も本格始動し、看板商品の「二年味噌」は長きにわたって愛され続けています。近年では、地元ラーメン店のタレに味噌や醤油を提供したり、調味料やスパイス、味噌とコラボした半生菓子を開発したりと、注目を集める丸正醸造。4代目社長の林信利さんに、しあわせバイ信州と共通する理念についてうかがいました。

 

 

深みある濃い色の「二年味噌」は、地元の家庭で長年親しまれている味

 

 

自然のなかでじっくり醸した、郷土の食文化を守り続ける

 

丸正醸造の理念は、「郷土の食文化を守り育む」というもの。伝統を継承し、これまで積み上げてきたものを守りながら、今の時代に合う商品をつくり、食文化を育んでいくことを大切にしています。

 

当社の味噌は、手間を惜しまず、蔵元伝統製法でつくるこだわりの味噌です。戦後、味噌を早く熟成させる技術が生まれ、2〜3カ月で完成する淡色の味噌が普及してきたなか、先代が作り上げたのが「二年味噌」。蔵元独自の家伝製法と微生物の働きによって、じっくり丸2年熟成させた味噌は、コクと深みのある味わいが特徴です。

本来、食事の際、米の甘みとおかずの脂っこさをリセットするのが味噌汁の役割だといわれており、甘さを控えた二年味噌は理にかなっているといえますね。

 

 

安曇野地方に伝わる、色が淡く甘さ豊かなうまみ醤油「あづみ野讃歌」も人気

 

 

醤油は、樽の中で自然に長期低温熟成が行われる、淡い色合いの「信州醤油」。1年かけてじっくりと醸され、穏やかな香りとマイルドな塩味、のびのある旨みに仕上がります。

 

醤油といえば、海沿いにある醤油名産地が有名で、どちらかというと魚の生臭さを消すような強い味わいや濃い色が多いのですが、当社の醤油は野沢菜や根菜、穀物に合うような、素材の味を生かすまろやかな醤油。信州の食文化と共に育まれた調味料といえます。

 

味噌造りに不可欠な大豆や米といった原料は、できる限り長野県産を使用するようにしています。以前はさまざまな産地の材料を使っていたのですが、2007年に、「うちの畑の大豆を使ってほしい」と地元の生産者さんから声をかけていただいたことがきっかけで見直すことに。

現在は県内外のスーパー様などで、信州産の大豆と米を使った味噌や醤油のお取り扱いも増えてきています。

 

 

味噌・醤油がベースの手軽な加工調味料やシーズニング、菓子が続々

 

最近の新商品は、赤味噌粉末と香辛料を合わせたシーズニング。口の中で味わいが時間差で訪れるのがおもしろい

 

 

味噌・醤油づくりの伝統を受け継ぐ一方で、今の時代に合った商品をつくることも積極的に取り組んでいることです。

私自身、大学で醸造学を専攻しましたが、一転食品商社に就職し消費動向を実体験したことで、家庭の台所ではいずれ味噌・醤油といった基礎調味料から料理をつくることは減り、地方でも簡便調味料を使用する頻度が増えることは予想していました。

実際、我が家の食卓を見渡したとき、ポン酢にタレにドレッシング、めんつゆなど、他社の既製品であることに気づいて。これを自社製造できたらいいなと考えました。

 

先代は「たれやドレッシング製造の前に、味噌・醤油を長野県内のお客様へ浸透させることが優先」と、約15年間かけ県内全域の小売店様などに自社の看板商品を拡販することに徹底しました。

そして創業115年を節目に、次のステップとして、味噌・醤油屋ならではの加工調味料を製造する工場を作ったのです。

 

ベースとなるのは、味噌や醤油。実は県内の醤油屋でめんつゆをつくっているところはあまりないのですが、信州そばというブランドがあるのですから、「信州そばつゆ」があってもいい。また五平餅のタレや、ワサビやクルミを使ったたれやドレッシングなら、信州の食文化にも繋がります。長野県で盛んな半生菓子にならって、二年味噌を使った味噌ドーナツやどら焼きも好評なんですよ。

 

ちなみに新商品開発の際は、母親に必ず味見をしてもらって最終的に決めていました。母は先代の好みを知っていますし、結果それは創業者の嗜好を汲んでいると言えます。今は妻に味見してもらいます。調味料や菓子でも、丸正醸造の味わいの軸は感じていただけるのではと思います。

 

 

蔵元の味が、家庭の味、地元の味を支えていく

 

「個人の飲食店も含めて、地元に支持される商品づくりに取り組みたい」と林社長

 

 

ありがたいことに、「うちの商品を作ってほしい」と声をかけていただくことがとても多くて、ここ15年間の新商品のうち7割くらいはオファーをいただいて製造している商品です。また生産者さんからうちの食材を使ってみてくれないか、と言っていただくこともあります。地元の食材はできる限り使い、かつ、お客様の買いやすい価格で継続してつくっていくことが大切だと考えています。

 

蔵の味というのはそれぞれ特徴、個性があるもの。それは家庭も同じ。家庭の食卓に上る料理がいつもの調味料で味付けされ続けることで、家庭の味に、そして郷土の味や懐かしい味になっていくのではないでしょうか。

新しい商品も、できるだけ地元の方に慣れ親しんでもらえたら。「あのラーメン屋のメニューに丸正醸造って書いてあったな」とか、思い出していただけたらうれしい。地元の需要に応えることが使命だと考え、今後も郷土の食文化を守ること、そして育むことに尽力していきたいですね。

【詳細情報】

社名
株式会社丸正醸造
住所
松本市出川町7-7
TEL
0263-26-1647
URL
https://mi-so.com
【この記事を書いた人】

ARURA・しあわせバイ信州編集部

「信州が大好き!」をモットーに、発見や驚きに満ちた情報、ほっと安らぎを感じられる情報、テレビや雑誌では紹介しきれなかった情報など、長野県をますます好きになる情報を発信します。